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クレセントムーンに想いをのせて 配信中です。

by 桐野りの

夢中文庫より「クレセントムーンに想いをのせて〜つれないカレに恋してる〜配信中です

表紙絵はえだじまさくら様。

「逃げるとこなんてどこにもないぞ」地上100メートルの密室の中、男は不敵な笑みを浮かべ白い太腿に手を伸ばす……。テーマパークのプレオープンにやってきた女子大生月香。総合デザインを担当した幼馴染の涼と5年ぶりに会いテンションが上がる月香だが、なぜか涼は不機嫌で二人はちょっとしたことで言い争いになってしまう。がっかりして帰ろうとする月香を涼は無理やり観覧車に乗せて意外な行為をしかけてくる。ずっと彼に恋してた。でも彼の気持ちがわからない……! 長い片想いは報われるのか……? 謎めいたメールにこめられた意味は? 美しい三日月と連なる星が導く、鈍感女子とちょっぴり意地悪な男のロマンティックラブ。
あらすじより

えだじまさくら様にいただいた表紙絵の、太腿にくらくらっと来て、あるエピソードを書き足しました。

どこやろか?

サンプルをのっけとくので探してみてね!

了解!

冒頭サンプル

◆一話

日本最大規模のテーマパーク「クレセントムーンスタジオ」。

そこでは、翌日八月一日の本格始動を前に、各界のVIP100名を招いたプレオープニングイベントが華やかにとり行われていた。

陽の落ちかけた園道を鼓笛隊と着ぐるみを着たマスコットキャラクターたちが練り歩き、ドレスアップした著名人たちが闊歩する。

そんな中、三上月香《みかみつきか》は、背伸びしたり、片手を額にかざしたりしながら、必死で一人の男性を探していた。

「……どうしよう。完璧に見失っちゃったかも……!」

テープカットを行う数人の中に、スーツ姿の幼馴染み、星野涼《ほしのりょう》を確認したのは、ほんの数分前だった。

勇んで駆け寄ろうとした時、ショーが始まり、スタジオのメインキャラクター、三日月頭のクレッセント君が目の前に飛び出してきた。

「麗しいお嬢様。私と一曲踊っていただけませんか?」

「え? あの、いえ、ちょ、待って……!」

固辞したけれど許されず、しばらくパフォーマンスに付き合わされる。

やっと解放された時、涼はもういなくなっていた。

「クレッセント君のバカ……これで涼に会えなかったら許さないんだから」

恨み言を言いながら月香はスマホを取り出し、涼の番号をタップした。

(お願いだから、スルーしないで……!)

呼び出し音はすぐに終わり、ぷつり、と音声の繋がる音がする。

(やった……! 出てくれた……!)

『「はい」』

彼の声が一瞬二重になって耳に届いた。

「え……?」

振り向いた瞬間、真後ろのベンチにスマホを耳に当てた、見知った顔を見つけ、月香は息が止まりそうになった。

「涼……!」

「よう」

五年ぶりにあう幼なじみはにこりと笑って片手をあげた。

星野涼。二十五歳。

このテーマパークの総合デザインを担当した、ニューヨーク帰りのデザイナーである。

高校卒業後海外に渡り、一流企業のロゴやハイブランドブティックのフロアデザインを手がけて一躍話題になった、世界で最も注目されている日本人。

月香の長い片思いの相手だ。

「お前さ、なに着ぐるみに遊ばれてんだよ」

涼はスマホをしまうと立ち上がった。足がとんでもなく長いため、座っているとわからないけれど立つとあまりの背の高さにそこはかとない威圧感が漂う。

「見てたの? だったら助けてほしかったよ」

ドキドキしながら月香は言った。

「そうしようかと思ったけど途中でやめた。お前がアワアワしてんの、結構面白かったからな」

涼は意地悪な口調で言った。高い位置からおりてくる、よく通るバリトンに胸の奥がじーん、と震えてしまう。

昔から目立つルックスだったけど、しばらく見ない間にますますカッコよくなっている。

その証拠にすれ違う人たちが、皆涼に視線を向けていた。

(ダメだ……私もオーラにやられそう……)

「なんだよ、その顔」

感慨にふけっている月香を見て、涼は戸惑うような表情を浮かべた。

「……本当に久しぶりだなあって思ったら胸がいっぱいになっちゃって……」

「……たかだか五年だろ。大げさな奴」

涼は照れたように呟くと、ふいにあたりを見回した。

「ところでさ、お前、なんで一人なわけ? おやじは一体どこだよ?」

「パパは……その……」

月香はおどおどと視線を揺らめかせる。

「もしかして来てない、とか?」

逡巡のあと、月香はこくりと頷いた。

「あのクソおやじめ」

涼は悪態をつくと、

「……どういうことか正直に教えろ。言っとくがごまかそうとしたって無駄だぜ。お前の嘘なんかバレバレだからな」

整った眉根を寄せ、双眸を鋭く光らせながら月香に圧力をかけてきた。

さっきまで穏やかだった空気が、一変してしまう。

月香の父、三上謙三郎《けんざぶろう》は、涼の天敵なのだ。

月香は仕方なく、ことの次第を話し始めた。

謙三郎は都内では名の知れた不動産会社を経営する実業家である。

三上家の使用人だった涼の両親が揃って事故で亡くなった後、謙三郎は『月香の遊び相手兼使用人見習い』、という名目で涼を家に引き取った。

謙三郎はいかにも昭和の男、といったタイプの頑固おやじで、現代っ子の涼とは最初からうまがあわなかった。

使用人見習いとはたてまえではなく、謙三郎は涼に実にさまざまな作業を言いつけた。

涼はそれを時折反抗的な態度をとりながらも、黙々とこなしていた。

強面の意地悪おやじと、薄幸の美少年。

幼い月香の目に、どちらが素敵に映っていたのか、言うまでもないだろう。

謙三郎にとっては娘を涼に取られた気分だったのかもしれない。

思春期に入った涼と老年に向かう謙三郎は次第に激しく言い争うようになっていた。

最大のバトルは涼がニューヨークに旅立つ直前に起きた。

『大学ぐらい行かせてやると言っとるだろう。なんでいきなりニューヨークなんだ!』

激昂する謙三郎に、涼は淡々と言い返す。

『本場で建築デザインの勉強がしたいんだよ。世界の中心はアメリカだろ』

理論整然とした物言いが、かえって謙三郎の神経を逆なでしていると言うことに、涼はちっとも気がついていないみたいだ。

『学歴もコネもない、お前みたいな若造が海外で通用するわけがない!』

典型的な頑固おやじのセリフで対抗する謙三郎。

『それでも俺は行く。この家を出て自立したいんだ。おやじもいい加減俺をかまうな』

その言葉は、謙三郎の心に火をつけた。

『はっ。笑わせる。自立だと? 尻尾まいて逃げ帰ってくるのが関の山だ。なんなら一億賭けてもいい!!』

『……本気かよ?』

『男に二言はない!』

謙三郎の予言は見事に外れ、涼は世界的な成功をおさめ凱旋帰国した。

だからゴミ箱の中に投げ捨てられた招待状を見つけた時も、月香はさほど驚かなかった。

イベントに出れば否応なしに己の負けを認めざるを得ない。それはプライドの高い謙三郎にとって、耐え難い屈辱のはずだったから。

◆二話

「あの野郎……VIP限定の超プレミアムチケット100の枠に一般人を潜り込ませるのがどれほど大変だったか、ちっともわかってねえな」

月香の話を聞いた後、涼は悔しげにそう言った。

確かに涼の言う通りだと思う。でも月香は内心、一人で来られたのが嬉しかった。父と一緒じゃ窮屈で楽しめないし、告白なんて絶対に無理だ。

「パパのことはもういいじゃない。それよりプレオープン、おめでとう! 今日は涼の晴れ舞台だから、頑張っておめかししてきたの。どう? なかなかいい感じでしょ」

後ろ下がりのミニドレスは、ブティックを10軒はしごして選んだお気に入りだ。

月香は両手を軽く広げ、くるりとその場で回って見せた。

だけどいつもより五センチ高いハイヒールでバランスを崩し、フレアーミニのスカートが派手にめくれあがってしまう。

涼の切れ長の目が一瞬見開かれ、視線がつ……、と下におりた。

「わわわっ……!」

月香は恥ずかしさに思わず悲鳴をあげて裾を押さえた。けど、もう遅い。

サイドに小花の刺繍があるレモンイエローのか細いショーツは、絶対に見られてしまったと思う。

腕に報道部の腕章をつけている男性がすかさずカメラを向けてきた。

「すみません、この子は芸能人じゃないんで。写真は遠慮してください」

素早く涼は月香の前に立ちはだかる。

男性が去ると涼はくるりと月香に向き直り、

「……ったく、なにをやってんだ!」

語気を強めて月香を睨んだ。

「……ごめんなさい」

気分を盛り上げようとしたのが空振りに終わり、月香はしょんぼりと肩を落とす。

涼は改めて月香に向き合うと

「あのな、招待状はおやじ宛てに贈ったんだ。あいつが来ないと意味がない。こんなことならテープカットも記者会見も引き受けなきゃよかったぜ」

せわしなくそう言った。

どうやら月香が思う以上に、涼の謙三郎への対抗心は強いらしい。

「……もしかして一億がどうとかって、本気なの?」

「はあ?」

「ううん、なんでもないよ……」

月香は首をすくめる。

おどおどした態度が気に障ったのか、涼は苛立つような表情を見せた。

「っていうかさ、お前もお前だよ」

涼は鋭い目で、月香の脚を凝視した。

「そのスカート、短すぎだろ。そんな格好でウロウロしてたら、そのうち誰かに攫われるぞ」

いきなり矛先が自分に向けられ、月香は戸惑った。

「なに言ってんの。これくらい、誰だって着てる……それに攫われたりしないよ。私、もう二十二なんだよ?」

「無自覚かよ。着ぐるみにまでナンパされてたくせに」

間髪入れずに言い返された。

クレッセント君のことを言ってるらしい。

月香はムッとした。

「あれはたまたま目の前に私がいただけだよ。ナンパなんかじゃ……」

「鈍感な奴って最悪」

涼ははーっとわざとらしくため息をついた。

「お前はいい加減無防備すぎる。男はな、みんな獣だと思っとけ」

さっきは面白いと言って見ていたはずなのに、理不尽すぎる。

反論しようとしたら、涼がはっとしたように両眼を見開いた。

「待てよ。おやじがいないってことは、お前、どうやってここまで来た?」

「電車だけど……」

「電車……!? 論外だな」

涼は眉根を寄せると、素早くポケットからスマホを取り出し、誰かを呼び出す。

会話を終えると、涼は神妙な顔で月香に告げた。

「田中さんに迎えを頼んだ。8時半に正門に来てくれるから、車に乗って今夜はおとなしくウチに帰れ」

田中とは三上家の使用人だ。

涼の父が亡くなった後、入れ替わりにその職についた人で、温厚で優しい人柄の老人である。

「……そんな……! あと一時間しかないじゃない……!」

月香は絶句した。

「ひどいよ、涼……! そんなに私が邪魔なの? もしかしてここに来たの迷惑だった? 来てほしかったのはパパだけだったの!?」

興奮気味な月香を見て、涼は少したじろいだ。

「9時すぎに記者会見がある。悪いけどずっと一緒にはいてやれないんだ」

「エスコートしてなんて言ってないでしょ! ほんの少しだけ話ができれば良かったの。でも、もういい」

高揚していた気持ちがシュルシュルと萎んでいく。

告白する勇気なんて、もう欠片も残っていなかった。

「今すぐ帰る。さよなら。涼」

月香はくるりと踵を返した。

「待て。迎えはまだだぞ」

「タクシーを拾うから大丈夫だよ」

「おいこら待てって」

がしり、と片腕が掴まれた。

「拗ねんな。そんな格好で来たお前が悪いんだろ?」

「だから、意味がわかんない」

月香は身をよじって肩に置かれた手を振りほどく。

涼は吹き出した。

(なんでここで笑うわけ……?!)

突き放されたショックで興奮気味な月香をなだめるように、涼はその手をそっと握った。

「そんなに毛を逆立てるな……迎えが来るまでは付き合ってやるから。来いよ」

温かい手のぬくもりに、心臓がありえないほど大きく跳ねる。

「……離してよ」

ずるずるとついていきながらも、拗ねた口調で月香は呟く。

「やだね」

涼は余裕たっぷりな表情でそう言うと、繋いだ手に力をこめた。

わかったで!あそこやろ!ヒソヒソ。

ふふふ。当たり。皆さんも探してみてくださいね。

おまけ

ヒット祈願に、観覧車に乗ってきました!

たくさんの読者様と巡り会えますように!


桐野りの
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